「壊滅騎士団と捕らわれの乙女」

屋敷を建て直しましょう!




「崩壊した屋敷を建て直そうとは思いませんか? 当然思いますよね?」
 クロッシアはそう言いながらグレンの目前に大きな紙を広げた。
 突然呼び止められたと思ったら急に話し出した。提案も唐突なもので、さすがフィーリアの従者だけあって、かなり変わっている。
「なんだよ、これ? 屋敷の、建築計画図?」
 グレンは紙を覗き込みつつ眉根を寄せる。
 建て直すもなにも、グレンたち一族が先祖代々住んでいた屋敷を跡形もなく壊したのはこの男だ。こんなものを見せて、なんのつもりか分からない。
「お前が全壊させたんだろ、俺の家族の屋敷を」
 今は亡き家族たちと暮らした大切な館だ。それを跡形もなく破壊されて……恨みを込めて声低く言うが、クロッシアは平然としている。
「あの屋敷はあちこち痛んでいたので、修理をして住まうよりも思い切って建て直した方がいいと思うんですよね」
「そんな金あるかっ! それに俺はあの土地の領主でもなんでもない。祖父が死んで、本来ならば俺が爵位を継ぐはずだったが、大叔父に奪われた」
「伯爵の称号なら、取り戻したらいいじゃないですか。あなたが死んだと思われていたので爵位を取られたんですよね? あなたは、軍務を嫌がって死んだふりをして逃走していたって軍法会議でも認められたんですから。裁判をすれば勝てると思いますよ?」
「本当かっ! そんなことができるのか!……というか、お前がそんなことをそそのかしてどうする?」
「俺はただ、あなたの屋敷のことを思って言っているだけです」
 クロッシアは胸に手を当てつつ、俺って親切でしょう、とでも言いたげだ。
 ああ、こいつは建築バカで、麗しい宮殿や教会に目がなくて、それ意外のことはなにも気にしない変人だとフィーリアから聞いていたが、本当にその通りだなと遠い目になった。
「あんなくたびれた屋敷のことなんて忘れて、新たな屋敷をあの地に打ち立てましょう! 俺の建築家としてのデビューです。なにもかも俺に任せてください!」
 目をきらきらと輝かせ、鼻息荒く言うクロッシアに、腹立たしさは頂点に達する。
「黙れ! この建築バカ!」
 グレンは思いっきりクロッシアを蹴り飛ばした。


「壊滅騎士団と捕らわれの乙女/伊月十和」

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